SATTYのDREAM LIFE!

人生はたくさんの夢と物語でできているのだ。空想と妄想がつまった私の日記。

僕は桜が嫌いだ。

こんにちは。SATTYです。

桜がそろそろ咲きはじめましたね。みんながソワソワ、ワクワクとしながら桜の開花を待っている。愛される象徴のような花です。かくいう私も桜が大好きです。

そんな世の中のHAPPYな雰囲気を感じながら、私は桜が嫌いな人のことを思いました。みんなが好きでも好きといえない、そんな人もいる。

今日はそんなお話です。

僕は桜が嫌いだ。

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僕は桜が嫌いだ。

なぜかと聞かれても、答えるつもりはない。 桜が嫌いだと言えば、「なぜ嫌いなの?」「こんなにキレイなのに」とみんなが聞いてくる。たとえ言葉にしなくても、わかる。だから僕は答えない。

すべての人間が、桜を好きでいなければいけないのだろうか。桜を嫌いなことは悪なのだろうか。ただ、そういう僕自身も、桜を嫌いな自分を受け入れられずにいる。なぜ僕は、みんなと同じように、「桜が好きだ」と言えないのだろうか。

僕は昔、桜が大好きだった。僕のそばにはいつもキレイな桜がいて、僕は毎日、桜の前で、その日1日の出来事を話すのが好きだった。桜が好きな僕のことを、みんなが喜んでくれた。桜も喜んでくれた。

雨の日も風の日も、僕は桜の下に通い、美しい桜を見上げて語りかけた。僕がどんなに桜が好きかを何時間も何時間も。桜はじっと耳を傾け、「お前はいい子だ」と、そう言ってくれた。

それからしばらくたって、僕は大きくなった。ある日の夕暮れ時、いつもの桜の樹の下に座り、しばらく考えていた。僕は自分の心のなかに、小さな違和感を感じていた。桜が好きな僕。桜が好きな僕を好きな桜。僕はいつしか、桜が好きな僕でい続けることに疲れてしまった。

「ねぇ、桜。僕はキミを好きでいることに少し疲れてしまった」

ポツリと僕はつぶやいた。桜は何も言わなかった。僕は桜を見上げた。すると、これまであんなにも美しかった桜が、夕闇の中でにごった満開の花を広げ、僕にせまってくるように見えた。怖い、怖い、怖い。僕は桜が恐ろしくなり、その場から逃げ出してしまった。

それから僕は桜を見ることをやめた。桜の季節がやってくるたびに、僕は憂鬱になり、桜から遠く遠くへと離れるようになった。

桜を失ってしまった喪失感の中で、僕は必死に生き続けた。たくさんの人に出会い、たくさんの経験をした。桜を嫌いになってしまった僕を、それでも構わないと愛してくれる人がいた。僕は僕自身を受け入れるために、もがいた。

あれからどのくらいの時間がたっただろうか。また、桜の季節が訪れる。今日もまだ、僕の胸にはあの日の傷が残っている。桜を怖いと感じた、あの日の恐怖が消えずにいる。

僕はまたいつか、桜を愛することができるだろうか。あの頃と同じように、ではなく。もう一度、新しい僕で。

握りしめていた手のひらをそっと開くと、ザァ…っと風が吹き、くすんだピンクの花びらが手のひらから舞い上がる。僕は濡れた頰をぬぐい、桜に背を向けて歩き出した。

あとがき

好きでいなくてはいけないもの、というのが世の中にはたくさんあるような気がします。例えば、子供の頃にみんながこぞって夢中になったキャラクターだったり、はたまた、親や子供だったり。

様々な人生の中では、それぞれに異なる経験があり、誰かが愛してやまないものも、誰かにとっては恐れる存在になったり、そんなことがあるように思います。

そういう時に自分を何よりも苦しめているものは、他でもない自分自身。好きでなくてはいけない、好きでいたいという無意識の葛藤に苦しむことがある。そんなことを思ってかいたお話です。

大好きだったあの頃と同じ気持ちになることは、もう難しいかもしれないけれど、そんな自分を受け入れることができた時、もう一度新しい気持ちで向かい合える時がくるのかなと。

桜を愛したくて、愛することができなかったある人の話。

それでは今日はこの辺で。最後まで読んでくれてありがとうございました。

また、明日のお話で。