10年後、物語となる夜の話<第二夜>
こんにちは、SATTYです。
それじゃぁ今日は、昨日の夜の続きをお話しましょう。
今日は、父のことを少し話したいと思います。
昔の話
私の父は編集者でした。
物心ついたころから、我が家にはたくさんの本がありました。 父がいつも自分の会社で発行された作品を、子供たちにと持って帰ってきてくれたから。
自然と私は絵本を読み、小説を読み、新しい物語と出会う喜びを知りました。
我が家の本棚には、びっしりと本がつまっていました。歴史を綴った話、家族の話、それから警察の話に冒険の話。
まだ読んだことのない本を、あれやこれやと探しては、「おとうさん。アレ、読んだよ」と父に報告をするのを、私はとても誇らしく思っていました。
とある有名な方の本のあとがきに、父の名前がありました。
『―そして最後に、この本を一緒に作ってくれた・・さんに、心から感謝します』
毎日毎日、作家さんの元に通い続けたその日々を語る父は、まるでまだ夢を追いかけている青年のような顔で、「作品を作り上げること」「仕事に誇りを持つこと」の素晴らしさを、私に語りかけていました。
そして、父が信念と時間を注ぎ込んで向き合った本の数々は、どれも素晴らしかった。
自然と見続けた父の背中。
おそらくその影響でしょうか。私は自分で物語を作りたいと思うようになりました。
ある日はじめて最後まで書き上げた作品を読んだ父が、「おまえは、なかなかうまいなぁ」とほめてくれた時、嬉しかったなぁ。
国語のテストで100点をとった時より、作文を先生にほめられた時より何よりも嬉しかった。
私にとって、父は大好きな物語の一番そばによりそう、憧れの人でした。
父が教えてくれたこと
ことあるごとに父とは本について、文章について話をしていたような気がします。
父はたくさんのことを私に教えてくれました。
両親に借金のお願いをするために書いた嘆願書(苦笑)を読んだとき、
「お前の頭の中ではできあがっている文章かもしれないけど、お父さんには何にも伝わってこない。これじゃぁ口ばっかり。無駄な装飾が多すぎて、薄っぺらい」とバッサリ。
おとうさん・・・あなたは、娘がお金を借りるというその行為ではなく、伝わらない文章を叱責するのですか・・・。そんなありがたい夜があり。
「おとうさん、私物書きになりたい。でも、もう遅いかなぁ」
そう打ち明けた私に、「今が遅いなんていうなら、何もはじめられない」と笑った父。
あれから、もうずいぶんたったけど、やっぱりそんな夢を見てしまうのは、あの日背中を押した父のせいだ、そう思える自分が嬉しくもあり。
「お前は文章を書いて、何を伝えたいの?伝えたいものがないのに、書くことなんてできないはずだ」
イオンモールの回転ずし。横並びのカウンター席で寿司をつまみ、父の質問に答えられない自分が恥ずかしかった。苦い苦い思い出があり。
父と私をつなぐ共通の時間。それが物を書くということだったのです。
もう一度書いてみようと決めた朝
ある日夢を見たのです。父が死んでしまう夢。涙をぼろぼろと流しながら目覚めた朝、現実と夢の区別がつかない私を襲ったのは、悲しみよりも激しい後悔でした。
ドキドキと胸の動悸がなりやまず、一生で一番の願いを叶えられなかった自分を責めました。
私は父に、自分の作品を読んでもらうこと。父の赤入れで、物語を完成させること。それだけは叶えないといけないと、ずっと思ってきました。
「いつか」という都合の良い言葉をかぶり、夢だけを語り続けた私は、何も残そうとしなかった自分が最後に行き着くであろう、泥沼のような後悔をこの朝に体験したのです。
父はもう70歳を過ぎ、おじいちゃんと呼ばれるようになりました。
いつまでも待っていてくれるわけではないと、心の底では知っていました。ただ知りたくなかった。顔を背けて、見ないようにしていた甘い自分を、この時ばかりは思い知らされました。
なんでもいいから、書かないといけない。こんな後悔を現実にはできない、そう思ったあの朝が、今の私のブログを支えているのかもしれません。
この夜を忘れたくはないのだ
「読んだ?どうだった?」
ブログの感想を求める私に、父は言いました。
「はじめて読んだ人にも、ちゃんとわかるようにしないといけないな」
そうかぁ・・やっぱりおとうさんは厳しいなぁ。でも、書かずにいたあの時よりも少しだけ近づいたような気がするよ。それが私は嬉しい。
作家を愛し、作家の物語を愛した父は、書き手にとって誰よりも素晴らしい読者であったんだろうと思います。
「この表現は・・・」「この登場人物の想いは・・・」
いつか肩を並べて、私の文章のことをあなたは語ってくれるだろうか。
赤ペンで真っ赤に添削して、「作家とともに作り上げた物語なのだ」と、そういってくれるだろうか。
・・・
「・・・つまり、一本の木から、どれだけの想像をふくらませることができるか。 作家っていうのは、そういうもんなんだよ。」
目の前で、義理の息子であるDスケさんを相手に熱弁をふるっている父。
やっぱり、文章のことになると饒舌になるみたい。お酒もすすんで、まぁ困ったもんだ。
でも、そんな風に更けていくこの夜がきっと、私にとって何ものにもかえがたい物語になるのです。10年後も20年後も決して忘れられないような。
それでは、今日はこの辺で。最後まで読んでくれてありがとう。
また、次のお話で。