『ごはんのおとも』と、山下くんのお弁当
フーフー・・・ハム。・・モムモム・・・ンムンム・・・ゴクン。
フーフー・・ハフッ・・・・ンムンム・・ンフッツ、ブフッ・・・オホオホ・・ゴホッ・・ング。
・・・ハー・・ ・・・
あ、こんばんは。SATTYです。
いやぁ、すみません。お見苦しいところを。いや、いま食事中でして。優雅なレストランからお届けしています。ちなみにガストです。
毎日の中で、やっぱり食事の時間っていうのは大切ですね。美味しいもの食べたら、ホッコリ幸せになります。
三大欲求っていうじゃないですか。食欲、睡眠欲、性欲?人間の本能から芽生えるこの欲求って、すごく心に近いところにありますよね。
睡眠が足りないとイライラしちゃったりするし、性欲は恋心に繋がってますね。そして「食べる」ことは、ものすごく幸せを感じたり、懐かしくなったり、それからギュッと切なくなったりすることも、ありませんか?
私はたまに、人がご飯を食べてる姿をみて、なぜか猛烈に切なくなることがあるんですよ。
ご飯を食べてる時って、基本的にすごくみんな正直な姿になる。本能のままに動いているわけですから。 誰に見せるでもなく、着飾るでもなく、目の前にある食べ物と向かい合って、ただ食べる。
人の「 素」の姿が見えるというか。その姿に、すごい哀愁が漂ってたり、寂しそうだったりすることが、たまーにあるんですよね。本当のところ、知らないんですよ。本人はめちゃくちゃノリノリなのかもしれないし、勝手に哀愁漂わせるなって思われるかもしれないけど、あるんですよ。
それで、そういう光景を目にしたとき、いっつも思い出すことがあります。小学生のとき同級生だった山下くんのこと。今日はそんな話です。
ごめんな、山下くん
小学校4年生のころ、同じクラスにいた山下くん。確か3人の妹がいるお兄ちゃんやったかな。
山下くんは、結構なヤンチャもので、まぁよく先生に怒られてた。顔にも手にも傷をいっぱい作って、冬でも半袖で走り回りガハガハ笑うガキ大将。山下くんはいい子やったけど、ちょっと怖かった。
その日は給食がお休みの日で、みんな家からお弁当を持ってきてた。子供ってお弁当が大好きやから。待ちわびたお昼ご飯の時間、私たちはいつも以上にはしゃいでた。
すると、山下くんがこういう。
「お弁当のフタが、あかへん」
今でもあるかな、フタを閉めて両サイドのパタパタしたやつを、パチンって閉じるやつ。 あれさ、密閉されすぎてフタが張りついてまうことがあるねんよ。もうちょっとたつと、空気穴がついたやつとか出てくるんやけど、山下くんのお弁当箱は違うかった。
山下くんのお母さん、あったかいご飯をぎゅーぎゅーに詰めたんやろな、ピッタピタに張り付いて、横のパッチンを外しても開かへん。
「貸して」
私は山下くんのお弁当箱を受け取って、フタを外そうとがんばる。でも、ビクともせえへん。私が、意地になってウンウンうなってると、山下くんが先生に呼ばれた。
「山下、お前ちょっとこい」
あー、これまた怒られるな・・・と私は思った。先生の顔が明らかに鬼やったし、お弁当の時間に呼び出すとか、よっぽどやから。 山下くんは行ってしまった。私にお弁当を託して。
これは、開けたらなあかん、と変な気概をみせて私はウンウンとさらに頑張った。
ウンウンウンウン頑張ってたら、もう力を入れすぎてしまって、容赦なくなってしまって、アッて思った時にはもう遅かった。 開いてん、フタは開いてん。でもそのままひっくり返って、地面に落ちた。
教室の木の床の上に、逆さまになったお弁当箱。
ーやってしもた・・・・・・
とっさに私は、お弁当箱に手を伸ばして、拾い上げる。そしたらな、山下くんのお弁当は、それは見事な日の丸弁当で、山下くんのお母さんがぎゅーぎゅーにご飯を詰め込んでたから、お弁当はなんにもこぼれることなく、キレイに元通り。
・・・えっと・・これは、良かったんか・・?・・でも落ちたけど・・・ご飯は床についてしもたけど・・・えっと・・3秒ルールかな・・さっき掃除終わってるし・・・いや・・でも・・・・
小学4年生の私が、狼狽しているところに山下くんが帰ってくる。
山下くんは泣いていた。よっぽどこっぴどく叱られたんやろうか、しゃくりあげるほどに泣いていた。あの山下くんが。
・・・何してん、山下くん。なんで泣いてるん・・・
山下くんは、私が開けたお弁当箱をみて、一言泣きながら 「ありがとう」 と言った。 そして、そのまま、うぐっうぐっと泣きじゃくりながら、日の丸弁当を食べ始めた。
まっすぐにお弁当を見つめて、ご飯を食べる山下くんの背中が、あまりにも悲しすぎて、だってそのお弁当、私落としてしもたし、でも山下くんはもう食べてしまってるし、なんかよく分からへんけど、たまらなくなって、私も泣いた。
山下くんは、ちょっとビックリして「お前何泣いてんねん!」って言って、ちょっと笑ってた。その泣き笑いをみて、私の涙はまた吹き出した。
どうしても言えんかった・・・
「山下くん、お弁当落としてごめん」って。
ごめん、ごめんなぁ、山下くん。
私は今でも、ご飯を食べる人をみて、なんとなく切ない気持ちになった時、山下くんを思い出して胸がキュッと 痛くなる。
『ごはんのおとも』たな著
引用元:Amazon.co.jp: ごはんのおとも: たな: 本)
ごはんにまつわる、キュッと切なくなったり、幸せになったりする人たちの話が描かれた「ごはんのおとも」。私はグルメ漫画が大好きなのですが、この本は、最近の中で一番のお気に入りです。
描かれているごはんの絵が、それはそれは美しくて美味しそうで、眺めているだけでもヨダレとホッコリが一緒に楽しめるフルカラーの本。
ちょっと頑張りすぎちゃった男の人、初めての一人暮らしに家族を想う女子大生、長年連れ添った奥さんに先立たれたおじいちゃん、たくさんの人が集まる小さなお店の話です。
少しづつそれぞれの登場人物の人生が絡み合っていくこの物語を読み終わった時に、私はなんとも言えない幸せで切ない気持ちになりました。いいよ、すごく。
この本のことを紹介したくて、目の前できのこ雑炊をすすっているお兄さんを見てたら、なんだか切なくなってきて、山下くんに想いを馳せた今日の夜でした。
・・・・ピンポーン
「あ、すいません、抹茶プリンサンデーひとつお願いしますー」
あぁ、食欲が止まらない・・・
それでは今日はこのへんで。
また、次のお話で。